8.
ユラもユラで忙しいみたいなのと、察してくれたのか何も聞いてこなかった。大会の日までは普通に仕事をしたり、ベジタリアンに連れられてトレーニングをしたり。逃げる練習ばっかだけど。色んなヤツに声をかけているみたいで、何人かとは顔見知りになった。トレーニングの後は、病院で精密検査を受けたりして。そこまでする必要あるのかな?筒状のマシーンに入ってブーンと光が体をなぞる。
ある日店番をしていると、肉が食えなくて【略】8倍強い男がやってきた。いつもと同じ。肉を前にして脂汗を流して拳を握り締めている。うわ、手の平から血が出てない?何かブツブツと言っているから、耳をすましてみると……。
「……次こそは、次こそは、次こそは……。」
呟いていた。やっぱり肉は買わずに帰っていった。なんだったんだあいつわ。けっこうヤバイ思想の持ち主だったんじゃあない?その日を境にして店には来なくなった。
そして選別の日。ユラが目を覚ます前に家を出る。声を聞くと怖気づいてしまいそうだから。朝日が上りきる前のわずかな時間。冷たい空気の中の我らが住まい。ボロっちいバラック屋根も少しだけ神々しいような、神秘的なモノを感じさせる。廃材を寄せ集めた粗末なつくり。発電とかはしない飾りだけの風車がカラカラとまわっていた。
「帰ってくるさ。また会えるさ。」
そう呟いて、選別の会場に向かった。
原題『エスカレーターガールズ「T」』続きます。これにて試し読みは終了です。もしも、全部読みたい!という方は、『劇団ヤルキメデス超外伝』までご連絡くだされば。
ブログ アーカイブ
-
▼
2014
(14)
-
▼
2月
(14)
- 14「帰ってくるさ。また会えるさ。」試し読み終了
- 13「情けないけど死にたくない。」
- 12「全然そんなの無視して、見ないようにして生きていくのもできたのじゃないだろーか。」
- 11「精神が、魂も空に上っていくとするならば、もうあの街に届いているかも。」
- 10「捨てたモノの中に宝物が混じっているように、この街の人間にもチャンスが残されている。」
- 9「 私達の心には闇がある。」
- 8「一度は否定しても、胸の中に湧き上がってくる感情が、その否定を否定する。」
- 7「同じく肉は食べられないヤツでも、今度は普通のベジタリアンが現れた。」
- 6「愛する愛さないってのは血の繋がりとかじゃないでしょ!」
- 5「空を見上げるとあの街の明かりも消えていた。」
- 4「区役所についた時は夜の礼拝の時間だったみたいで、その場にいる人らは皆して床にひざまずいていた。」
- 3「ユラはオレを三畳にも満たない部屋に招き入れた。」
- 2「今日は給料日。久しぶりに楽しいことをしに行こうかなっと足取りも軽い。」
- 1「天使様達がこの世界を変えようと宇宙で闘われたらしい。」
-
▼
2月
(14)